職務分析・評価と社労士の役割:エッセンシャルワーカーの給与水準向上は実現するか?


1. エッセンシャルワーカーの処遇改善が社会課題である理由

社会の基盤を支えるエッセンシャルワーカー(介護、医療、保育、物流など)の多くが、その職務の重要性や負担に見合わない低水準の賃金で働いているという現状は、日本社会全体の大きな課題です。労働市場の需給逼迫(人手不足)と相まって、この課題の解決は待ったなしとなっています。

この処遇を改善し、給与水準を全産業平均並みに引き上げることは可能なのでしょうか。その鍵となるのが、「職務分析・職務評価」と、それを実行・支援する「社会保険労務士」の役割です。

2. 職務分析・職務評価は万能か? 改善への道のり

「職務分析・職務評価」は、職務の持つ価値、責任の重さ、必要な専門性を客観的に測定し、適正な賃金体系を構築するための強力なツールです。

エッセンシャルワーカーの職務特性(例:高度な対人スキル、緊急時の判断力、精神的・肉体的負担など)が正当に評価されれば、それが賃金水準の改善につながる可能性は極めて高くなります。

しかし、職務評価の実施だけで給与水準が自動的に全産業平均並みに改善されると断言することはできません。最終的な給与水準の決定には、以下の要因が影響するからです。

影響要因詳細
財源の確保賃金引き上げのための企業の収益性や、公的サービス分野における公費(国や自治体の補助金、加算金など)の投入。
評価結果の反映職務評価の結果を、企業がどれだけ賃金テーブルに反映させるかという経営判断。
労働市場の需給人材の不足度や競争の状況。
政策的介入国による最低賃金の引き上げや、業界特有の処遇改善加算制度などの有無。

➡️ 結論として、職務分析・評価は改善の論理的な「基盤」を提供しますが、平均並みへの到達には「政策的な後押し」と「財源措置」が不可欠です。

3. 社会保険労務士が貢献できる二つの主要な役割

このような課題解決と、公正な**職務給(ジョブ型人事制度)**の導入において、労働法と人事労務管理の専門家である社会保険労務士(社労士)は、客観性・公正性・適法性を担保する重要な役割を果たします。

役割1:職務記述書(ジョブディスクリプション)作成への貢献

低賃金職種では、業務の「見えにくい価値」が賃金に反映されにくい傾向があります。

  • 職務内容の客観的な整理: 社労士が第三者として現場に入り、エッセンシャルワーカーが行っている「暗黙の専門性」や「見えにくい業務」(例:保護者への精神的サポート、リスクマネジメントなど)をヒアリングを通じて漏れなく把握し、職務記述書に落とし込みます。
  • 職務範囲と責任の明確化: 職務の目的、必要なスキル、責任の範囲などを明確に定義し、職務の「重さ」を客観的に可視化します。
  • 法規制への適合性チェック: 作成された職務記述書が、「同一労働同一賃金」の原則に照らして、正規・非正規間で不合理な待遇差を生んでいないかを、労働社会保険法令の専門家として検証します。

役割2:職務給制度普及と運用の適法性確保

職務記述書を基にした「公正な賃金体系」の構築と、その持続的な運用を支援します。

  • 公正な人事制度の設計: 職務評価を行う際の評価要素が、エッセンシャルワーカー特有の職務特性を正当に反映しているか助言・診断します。
  • 賃金テーブルの適法性検証: 設計された職務給テーブルが、最低賃金法などの労働関連法規に適合しているかを検証し、適正な水準で運用できるよう支援します。
  • 運用の適法性・持続性の確保(労務監査機能): 制度導入後も、評価や昇進・降格などの運用が、職務記述書と賃金テーブルの意図通りに、かつ労働法規を遵守して行われているかを定期的にチェック(労務監査)し、制度の崩壊を防ぎます。
  • 従業員の納得性の向上: 社労士という第三者の客観的な評価を経て設計された制度は、賃金決定の根拠を明確にし、従業員の「働きに見合った賃金」という信頼感を高めることに貢献します。

4. まとめ

職務分析・職務評価は、エッセンシャルワーカーの職務の真の価値を明らかにし、公正な賃金(職務給)を実現するための強力なツールです。そして、社会保険労務士は、その制度設計と適法な運用を専門的な知識で支援する不可欠なパートナーです。

エッセンシャルワーカーが報われる社会を実現するため、まずは企業・組織内で職務の価値を正当に見つめ直すことから始めましょう。

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